生物多様性・TNFD提言に基づく開示
考え方
「限られた資源を活かして使う『環境を通じ社会に貢献する環境創造企業』」をパーパスとする当社は、様々な活動を通じて生物多様性の保全に取り組んでいます。生物多様性を損なう主な要因として以下の問題が取り上げられています。
- 自然環境の破壊と汚染
- 天然資源の過剰な利用
- 地球温暖化
- 外来生物
ダイセキは生物多様性の保全のために、以下の取り組みを行っています。
- ●環境保全、生物多様性の保全の重要性に関する社員教育
- ●当社の事業活動による事業所周辺へ与える環境影響の調査分析
- ●事業所からの排水による環境負荷の低減
- ●リサイクル製品の利用促進による天然資源の枯渇防止
- ●事業活動による温室効果ガス排出量削減による地球温暖化の防止
- ●事業所周辺の清掃活動などによる汚染防止と自然環境の保全
- ●緑地保全事業への寄附の実施
各ステップの取り組み
ダイセキの生物多様性保全に配慮した事業活動の全体像
当社が依存している生物多様性 | 当社の事業活動 | 当社が利用している主な天然資源 | 当社の活動が生物多様性に与え得る主な影響 | 生物多様性保全活動 | |
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リスクの低減につながる活動 | 機会の拡大につながる活動 | ||||
原材料生産地の流域※・生態系 | リサイクル製品の原材料となる廃棄物の調達 | 主な原材料は製造業が排出する廃棄物 | 天然資源の使用は僅かであるため、この影響は小さい | 更なる天然資源の使用量の削減に向けた取り組みの推進 |
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各工場が立地する流域生態系 | 生産 | 工場操業時の 上水、工水、地下水 |
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工場周辺の美化、清掃活動による生態系の保全 |
消費者が生活する流域生態系 | 消費者によるリサイクル製品の 使用 |
なし | リサイクル製品に含まれる有害物質の環境への流出 | リサイクル製品出荷時における分析による品質管理と安全性の確認 |
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消費者による廃棄 | なし | なし | なし | なし |
※流域:水でつながる森林、河川、里山、干潟、海浜等の生態系
TNFD提言に基づく開示
自然関連財務情報タスクフォース(TNFD:Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)では、投資家などに対し、自社の自然資本や生物多様性に関する依存と影響およびリスクと機会を適切に評価・開示することを求めています。ダイセキグループでは、これまでも環境創造企業として、枯渇性資源への依存状態を認識し、省資源化に努めるとともに、自然環境への事業活動が与える影響や、それらにより生じうるリスク・機会の把握とそれらの管理および開示に努めてきました。加えて、2024年には、TNFDにより開発された評価手法であるLEAPアプローチによる分析を開始しました。
ダイセキグループでは、パーパスである「限られた資源を活かして使う『環境を通じて社会に貢献する環境創造企業』」の実現を目指し、引き続き事業活動に関わる自然資本が有する環境課題の解決に向けて、取り組みを推進していきます。
一般要件に対するダイセキの姿勢
マテリアリティの適用
ダイセキグループは環境ビジネスにより90%以上の収益を得ており、自然資本への依存・影響やそれらにより生じるリスク・機会は、自然環境そのものに加え、事業継続性や収益性といった財務状況にも影響を与えるだと認識しています。そのため、自然資本への依存と影響やリスクや機会の評価にあたっては、ダブルマテリアリティに基づき、事業活動が自然環境から影響を受ける点と、事業活動が自然環境へ影響を与える点の両方を評価・開示しています。
開示のスコープ
ダイセキグループではこれまでも事業活動が自然資本への依存・影響やリスク・機会の評価を行っており、必要な開示を行ってきました。中でも、ダイセキの手掛ける産業廃棄物の収集運搬および中間処理・リサイクル事業は、ダイセキグループの総収益の50%以上を得る事業であり財務的に重要です。加えて、この事業では特別管理産業廃棄物やPRTR対象物質をはじめ、不適切な取扱いにより自然環境へ大きな影響を及ぼし、自然資本に対する影響を有する対象物を扱うという点でも極めて重要であると言えます。そのため、ダイセキで行っている産業廃棄物の収集運搬および中間処理・リサイクル事業については、TNFD提言に基づくより詳細な開示を、先行して行うこととしました。
より詳細な分析・評価、より広範な開示についても、事業活動の依存・影響やリスク・機会の評価を継続して行う中で、ステークホルダーとの対話や社会的な要請も踏まえながら検討を進めていきます。
自然関連課題がある地域
ダイセキグループは自然関連課題の局所性・地域性を認識しており、本開示に先立つ分析では操業地域それぞれが有する自然との接点や依存と影響、また近接する要注意地域を抽出しました。一方で、ダイセキでは日本全国での産業廃棄物の収集運搬を行っており、その事業特性上地域ごとの特性に依らず共通した自然への依存と影響やリスクと機会が存在していることが認識されました。
そこで、本開示においては、産業廃棄物の中間処理やリサイクル製品の製造を行う操業地域を含む、日本全体を対象地域とし、依存・影響、リスク・機会の評価を行いました。
他のサステナビリティ関連の開示との統合
ダイセキグループでは、TNFD提言に先行して発表されたTCFD提言に対応する分析結果を既に開示しています。それらの結果から自然関連課題と気候関連課題の強い関連性や、それぞれの解決に向けた行動に存在する相乗効果や寄与、さらにはトレードオフが存在すること、さらにはそれらに整合性を持たせる必要があることを認識しています。
考慮する対象期間
ダイセキグループは、従来のリスクマネジメントで扱ってきたリスクが比較的短期に顕在化することに対して、自然関連のリスク・機会は中長期的に顕在化しうることを認識しています。一方で、これらのリスク・機会を生み出す自然資本の変化の予測は、不確実性や知見の不足のため、困難な場合も多いと考えています。そのため、今回の開示では、短期(5年程度以内)に生じうる依存・影響、リスク・機会を評価しています。
組織の自然関連課題の特定と評価における先住民族、地域社会と影響を受けるステークホルダーとのエンゲージメント
ダイセキグループは、事業活動が自然資本のみならず地域社会をはじめ多くのステークホルダーへ影響を及ぼし得ることを認識しています。そのため、自然資本への依存・影響やそれらにより生じるリスク・機会の評価を含むリスクマネジメントプロセスにおいても、ステークホルダー・エンゲージメントを重視しています。
TNFD提言における全セクターに対する開示提言
ガバナンス
気候変動に関連した課題や自然関連課題への対応については、取締役会の監督・指導のもと、ダイセキの代表取締役社長をトップとするサステナビリティ本部会が中心に実施しています。サステナビリティ本部会は自然関連の課題に対する各種分析や評価結果・ステークホルダー・エンゲージメントを含む施策の進捗状況を取締役会へ報告するとともに、取締役会の自然関連課題に対する意思決定をサポートする情報を提供しています。
戦略
TNFDにより開発されたLEAPアプローチに沿って、ダイセキで行っている産業廃棄物の収集運搬および中間処理・リサイクル事業のバリューチェーンにおける直接操業部分を対象に、事業所の所在地を評価対象地域として自然資本への依存および影響の分析、ならびにリスクと機会の評価を行いました。
依存と影響の特定
バリューチェーンの各段階で存在する依存・影響を評価するため、NCFA(Natural Capital Finance Alliance)により開発されたENCORE(https://www.encorenature.org/en)を用いて、その評価結果と事業活動の実態を併せて評価を行いました。その結果、中間処理においては固形廃棄物浄化や水浄化といった生態系サービスへの依存があった他、収集運搬・中間処理に共通して、音・光による攪乱や温室効果ガスの排出、大気汚染物質の排出、固形廃棄物の発生、有害物の水・土壌への排出といった自然資本への影響があることが改めて認識されました
生態系サービスへの依存 | 収集運搬 | 中間処理 |
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水供給 | ||
気候調整 | ||
降雨調整 | ||
局所的な気候調整 | ||
大気浄化 | ||
土壌保持 | ||
固形廃棄物浄化 | ||
水浄化 | ||
水循環の調整 | ||
洪水緩和 | ||
台風緩和 | ||
騒音低減 | ||
生物学的調整 | ||
大気や生態系による希釈 | ||
感覚公害の緩和 |
自然資本への影響 | 収集運搬 | 中間処理 |
---|---|---|
音・光による攪乱 | ||
温室効果ガス排出 | ||
大気汚染物質排出 | ||
固形廃棄物の発生 | ||
土地利用 | ||
有害物の水・土壌への排出 | ||
水利用 | ||
侵略的外来種 |
依存と影響の程度
弱い
中程度
強い
ダイセキの収集運搬・中間処理における自然資本への依存・影響のヒートマップ
加えて、事業拠点地域等を対象にAqueductを用いた水リスクの評価や、WDPA(世界保護地域データベース)を参考とした生態系や生物多様性についての重要地域の評価を行い、要注意地域の特定を行いました。その結果、いずれの地域においても水リスクは低~中程度と低く、事業拠点の周囲に特に優先すべき保護区等は認識されませんでした。一方、収集運搬の際に利用する幹線道路などの周辺にはWDPA上で保護区とされる地域が存在しうることも認識したため、今後も事業エリアの拡大などの際には自然資本に関連したリスク評価を行う必要があると考えられました。
リスクと機会ならびに現在の取組状況
特定された重要度の高い依存と影響から、想定されるリスクと機会をサステナビリティ担当部門でのディスカッションに基づきリスト化し、それぞれに対し発生可能性とダブルマテリアリティに基づくインパクト(財務インパクトと自然資本に対するネガティブなインパクト)を評価しました。加えて、各々のリスク・機会に対する取組状況をまとめました。これらの評価には先行して実施していたTCFD提言に基づく分析結果等も参考にしました。
リスクに対する評価結果
リスクの分類 | 主なリスク | 想定される事業リスク | 事業リスクの財務インパクト | 発生の可能性 | 自然資本に対するネガティブインパクト | 取組状況 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
物理リスク | 急性・慢性 | 廃棄物、有害物による土壌の汚染 | 当社の中間処理後廃棄物による土壌の汚染 | 150億円以上 | 中 | 大 | 埋立汚泥について法令よりも厳しい社内基準値を設定し管理 |
運搬及び処理工程における産業廃棄物の土壌への流出 | 運搬工程及び処理工程における廃棄物の漏洩事故の防止を徹底 | ||||||
廃棄物、有害物による水資源の汚染 | 活性汚泥処理施設の不調による汚染物質の河川及び下水道への流出 | 150億円以上 | 中 | 大 | 活性汚泥施設からの排水について、法令よりも厳しい社内基準値を設定し管理 | ||
処理工程における産業廃棄物の河川への流出 | 活性汚泥施設の維持管理 | ||||||
運搬中に産業廃棄物が河川に流出 | 運搬工程及び処理工程における廃棄物の漏洩事故の防止を徹底 | ||||||
大気汚染物質の排出による大気環境の汚染 | ボイラー等のばい煙発生施設から排出基準を超過した大気汚染物質が大気中に流出 | 30億円未満 | 小 | 中 | 各ばい煙発生施設にて排出基準値を遵守 | ||
悪臭、騒音、振動による自然環境への影響 | 敷地境界における悪臭、騒音、振動の法令基準値の超過 | 30~150億円 | 中 | 大 | 悪臭、騒音、振動に関する法律の排出基準値を遵守 | ||
温室効果ガスの排出による地球温暖化の深刻化 | 異常気象の激甚化に伴う洪水などの自然災害による工場の被災及び操業停止 | 150億円以上 | 中 | 大 | 防災訓練の実施、BCPの整備、CO2排出量の削減 | ||
移行リスク | 政策 | 環境法令(大気、水質、土壌等)の規制強化 | 廃水処理規制に伴う活性汚泥施設からの河川及び下水道への排水量の制限により、産業廃棄物処理量の減少 | 150億円以上 | 小 | -※ | リサイクル方法の多様化などの技術開発を継続的に実施(リサイクル処理量の増加) |
新たな化学物質の規制に伴う現行の産業廃棄物の処理 | 30~150億円 | 中 | -※ | ||||
カーボンプライシングメカニズムの導入 | CO2排出量削減に向けた対応コストの増加 | 150億円以上 | 大 | -※ | CO2排出量の削減 | ||
市場 | 環境負荷のより小さい同業他社への顧客ニーズの発生 | 世界的には化石燃料と同等と位置づけられている再生燃料及び再生重油の需要喪失による売上の減少 | 150億円以上 | 中 | -※ | マテリアルリサイクルの増加を含むサーキュラーエコノミー型ビジネスの推進 | |
評判 | 顧客からの環境負荷の高い製品への否定的なフィードバッグの発生 | ||||||
技術 | 他社の環境負荷のより低い処理技術の実用化による同業他社からの攻勢 | 産業廃棄物の処理委託量の減少に伴う産業廃棄物処理事業の売上の減少 | 150億円以上 | 大 | -※ | 技術開発とM&Aによる新規技術の獲得 | |
責任 | 環境法令違反による告発・訴訟・賠償リスク | 産業廃棄物の不適切処理や関係する環境法令の基準値違反による告訴・訴訟・賠償 | 150億円以上 | 小 | -※ | 社内でのコンプライアンス勉強会の実施 | |
優良廃棄物処理業者認定制度による優良認定の取得 | |||||||
内部通報制度の運用 |
※移行リスクに関する事業リスクは、自然資本へネガティブインパクトをもたらす事柄ではないと評価した。
機会に対する評価結果
機会の分類 | 主な機会 | 想定される事業機会 | 事業機会の財務インパクト | 発生の可能性 | 自然資本に対するネガティブインパクト | 取組状況 | |
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機会 | 市場/製品・サービス | サーキュラーエコノミーの普及によるリサイクル処理サービス及び再生製品に対する需要の増大 | 廃棄物処理委託量及び再生製品の販売量の増加 | 150億円以上 | 大 | 大 | サーキュラーエコノミーへの移行に向けた技術開発を継続的に実施(新規ビジネス確立) |
環境法令の規制強化によるリサイクル処理サービスに対する需要が増大 | 廃棄物処理委託量の増加 | 150億円以上 | 中 | 大 | リサイクル方法の多様化などの技術開発を継続的に実施(リサイクル処理量の増加) | ||
温室効果ガスの排出が少ないリサイクル処理サービスに対する需要の増大 | 廃棄物処理委託量の増加 | 150億円以上 | 大 | 大 | サーキュラーエコノミーへの移行に向けた技術開発を継続的に実施(新規ビジネス確立) | ||
温室効果ガス排出量の削減貢献量の増加 |
リスクと影響の管理
ダイセキグループでは、サステナビリティ本部会において自然関連の依存・影響とリスク・機会を特定・評価しています。また、キャッシュアロケーションをはじめとした優先順位付けについては、サステナビリティ本部会の評価結果をもとに、取締役会で決定し、必要な対応をサステナビリティ本部会に指示しています。サステナビリティ本部会は、指示をもとに依存・影響とリスク・機会の管理を統括し、グループ会社や事業所への対応を依頼します。これらのリスク管理プロセス・体制は、気候変動に対するリスク管理とともに全社的なリスクマネジメントに組み込まれています。
測定指標とターゲット
依存・影響とリスク・機会の評価から、自然資本へのネガティブインパクトの大きいリスクについては取組みが進んでいる一方で、自然資本への取り組みの強化を求めるような移行リスクや、主にそれらにより生じる機会に対してはより一層の取組みが求められる状況であると改めて認識されました。既にダイセキでは既に気候変動対応や、環境保全の文脈で、これらのリスク・機会に対応する取組みを目標設定も含めて始めています。
今後も引き続き、自然資本に関連した依存・影響やリスク・機会の分析・評価・管理や、必要な開示を行っていきます。
自然資本に関連する重要なリスク・機会に対応する取組み
項目 | 特定されたリスク及び機会 | 指標 | 取組状況 |
---|---|---|---|
リスク | 環境法令の規制強化による廃棄物処理の高度化に対するリスク | マテリアルリサイクル処理量 |
年間258,300t以上(2030年度) |
カーボンプライシングメカニズムの導入に対するリスク | SCOPE1、SCOPE2、SCOPE3排出量の2021年度比 |
SCOPE1+SCOPE2:34% |
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再生燃料の需要喪失に対するリスク | 新規ビジネスの確立件数 |
3件(2030年度) |
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新技術の開発による同業他社からの攻勢に対するリスク | 新規ビジネスの確立件数 | ||
国内における産業廃棄物処理の市場シェア(従業員数100名以上の工場を対象) |
30%(2030年度) |
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機会 | サーキュラーエコノミー型リサイクル処理サービスに対する需要の増大 | 新規ビジネスの確立件数 |
3件(2030年度) |
環境法令の規制強化によるリサイクル処理サービスに対する需要の増大 | マテリアルリサイクル処理量 |
年間258,000t以上(2030年度) |
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温室効果ガス排出量の少ないダイセキのリサイクル処理サービスに対する需要の増大 | 新規ビジネスの確立件数 |
3件(2030年度) |
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温室効果ガス排出量の削減貢献量 |
年間78.5万t-CO2(2027年度) |
自然関連の依存と影響についてのグローバル中核開示指標・追加開示指標の開示項目
測定指標番号 | 指標 | 測定指標 | 開示個所 |
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気候変動 | 温室効果ガス排出量 | ||
C2.1 | 廃水排出 | 排出先別の排水量 | |
C2.2 | 廃棄物の発生と処理 | 有害・非有害廃棄物の発生量と、埋立が回避された重量 | |
C2.4 | 温室効果ガス以外の大気汚染物質総量 | NOx、SOx、ばいじん | |
A2.0 | 処理、再利用/リサイクルまたは回避される廃水 | リサイクル入荷量、リサイクル資源製造・出荷量 | |
A3.0 | 総水消費量と取水量 | 取水量と水消費量の合計 | |
A3.2 | 削減、再利用/リサイクルされた水 | 雨水利用量 |
自然関連のリスクと機会についてのグローバル中核開示指標の開示項目
測定指標番号 | 指標 | 測定指標 |
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C7.2 | 自然関連の負の影響により当該年度に発生した罰金、科料、訴訟の内容と金額 | |
C7.4 | 自然に対して実証可能な正の影響をもたらす製品およびサービスからの収益の増加とその割合、ならびにそのインパクトについての説明 |